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■第11回「米国におけるOTC販売事情と、自由化後の日本のOTC市場」

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欧米ドラッグ最新事情 第11回
「米国におけるOTC販売事情と、自由化後の日本のOTC市場」


医薬部外品となったドリンク剤に続いて、一般用医薬品(OTC)の販売についても規制緩和が決定した。米国ではOTCの販売は自由で、どこの店でも薬剤師なしで販売できる。このようなやり方にはやむなく始まった歴史がある。その昔大陸に移民してきた人々の開拓のペースに合わせて薬剤師を配置するわけにはゆかず、定期的に走る幌馬車にOTCを積んで、自由に販売せざるを得なかったのである。近年OTCによる副作用が顕在化してきたため、販売に規制を加えようとする論議が再三出てきているが、既得権を奪うのは難しく、結局は今までどおり全てのOTCが自由に販売されている。そして国民はOTCの服用を自己責任で行っている。

この米国では薬剤師以外の人間が薬の相談にのったり、推奨をすることは禁じられている。テクニシャンと呼ばれる薬剤師助手でさえ、OTCの相談や推奨販売をしてはいけないのだ。薬は人命に関わる商品であり、薬に関するきちんとした教育を受けていない人が、薬の相談にのることは非常に危険であるからだ。例えば緑内障の人に抗ヒスタミンの成分の入った薬を推奨して服用したら失明の危険もある。

しかし最近米国人の死因の第四位は「薬」によるものとなり、薬の間違った服用や正しく服用しなかったことによる薬害が死因の上位を占めるようになった(第一位は心臓疾患、第二位はがん、第三位は脳卒中)。クスリとは逆から読むとリスクになるとおり、間違った使い方は非常に危険なのだ。このように薬害が増加したのは、米国民の平均年令が上がるにつれ、若いときは体力で薬の害もカバー出来たのが、体力の衰えから副作用が顕在化してきた結果である。その上、スイッチOTCの促進とハーブ・ミネラル・ビタミンの普及が薬害に拍車をかけている。医療費の高騰を抑制するために、処方薬を大衆薬に移すスイッチOTCが盛んに行われており、現に米国の大衆薬の売上げトップ10は全てスイッチOTC化された商品である。スイッチOTCの薬はキレが良い反面、薬害も出やすい。又オルターナティブメディスン(代替医療)の普及により、人々はビタミン、ミネラル、ハーブを気軽に毎日服用している。しかしハーブはヨーロッパでは処方薬の位置付けにあることが多く、間違った使い方は非常に危険なのだ。これらハーブやサプリメント自体の問題に加え、処方薬や他のOTCとの飲み合わせなどからも薬害が起きている。そのため米国では政府をあげて“Take It Seriously”(薬を飲むときは慎重に飲みましょう。そして出来るだけ薬剤師に相談して、薬を購入し服用しましょう。)運動を展開している。その結果消費者の間に薬の誤った服用は非常に危険だという意識が浸透した。

そのため消費者はOTCの購入をするとき薬剤師のいる小売店で購入するケースが多く、薬剤師のいない小売店でのOTC販売は微々たるもので、その市場は縮小している。下記の表は米
国における2002年度の小売業(ドラッグストア、スーパーマーケット&ディスカウントストア)におけるOTCの販売状況である。ウォルマートに代表されるディスカウントストア業態では多くの店に薬剤師を配置しており、且つ圧倒的な価格の安さで好調な売上げを保っている。

ドラッグストは薬剤師によるカウンセリングの強化と、幅広く・深い品揃えで他の業態との差別化を図っている。一方スーパーマーケットでは、コンビネーションストア以外では薬剤師は配置していないため、OTCの販売が縮小している。コンビニエンスストアでも販売してはいるが、万引き防止のためにレジカウンターの内側に陳列しているため、お客は気軽に取ることが出来ず売上げは微々たるものだ。


◆2002年度OTC売上

ウォルマート抜き売上 前年比 ウォルマート含む売上 前年比 市場シェア
総売上 218億ドル +4.2% 323億ドル +4.9% 100.0%
ドラッグストア 103億ドル +4.8% 103億ドル +4.8% 31.9%
スーパーマーケット 86億ドル -1.2% 86億ドル -1.2% 26.6%
ディスカウントストア 29億ドル +4.1% 134億ドル +5.1% 41.5%


ここで、米国のOTCのトップ業態がドラッグストアではなくてディスカウントストアであるという事実に注目しなければならない。かつて首位であったドラッグストアは、今や圧倒的低価格を提供するディスカウント業態に市場を取られた。そしてファーモア、ドラッグエンポリアム、F&M、スリフティ等、価格を武器にした多くの大手のドラッグストアは消えてゆき、ヘルスケアの専門性(幅広く・深い品揃えとカウンセリングの充実)を図ったドラッグストアのみが勝ち残ったのである。

日本も薬の自由化により、ディスカウントストアのみならず、海外のウォルマートやコストコ等の価格を武器にした業態の侵略により、今後競争は米国同様激しいものになる。また長時間営業のコンビニエンスストアも品揃え強化してシェア奪ってゆく。その結果、専門性が欠如し、価格のみで勝負するドラッグストアや薬局は彼らにつぶされていくことになるだろう。

一方現在の消費者は、医薬品小売業に商品の販売のみならずヘルスケアの問題解決を求めている。例えば風邪を引いたとき、顧客は風邪薬の単品が欲しいのではなく、風邪を一分一秒早く治したいのである。そのためには風邪の初期・中期・後期、高熱を伴うか、風邪の種類などを見極めて風邪薬を提供し、合わせて滋養強壮剤、ビタミン、マスク、うがい液等も提供、水分を十分取ること、どのような食事をとるか等、すばやく風邪を直すための総合的な適切なアドバイスの提供が求められる。

このような「ヘルスケアのソリューション」を顧客に対して提供出来るドラッグストアや薬局は、自由化に関係なく成長してゆくだろう。



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