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■第24回「問題視されるチェーンドラッグ薬剤師と患者の親密度希薄化」

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欧米ドラッグ最新事情 第24回
「問題視されるチェーンドラッグ薬剤師と患者の親密度希薄化」

米国の総医療費は2004年に1490億ドルを記録した。人口は日本の2倍だが、医療費総計は5倍近くで、医療費の抑制が国を挙げての課題となっている。そのため、管理医療制度の導入やセルフメディケーションの促進に力をいれている。この高騰する医療費の中でも、4.1千万人の貧困者向け政府保険であるメディケイドのコストの増大は大きな問題で、この保険のコストカットが叫ばれている。しかしメディケイドのコストカットは、ドラッグストアにとっては深刻な問題である。何故なら、平均的ドラッグストアでは、調剤売上げの12〜13%をメディケイドで上げているからだ。


◆2004年度米国の医療費

支払の種類 金額
民間保険 6560億ドル
メディケイド 3050億ドル
メデイケア 2840億ドル
患者の自己負担 2430億ドル
医療費合計 14900億ドル


さて、医療費の高騰抑制社会の米国において、調剤薬や大衆薬(OTC)の需要が伸びているが、市場別の動きを見てみるとドラッグストアが他の業態に侵食されている。調剤薬はチェーンドラッグが1位だが、他の業態にシェアを奪われだしているし、大衆薬にいたっては約半分近くをマスマーチャンダイザーに持っていかれ、首位の座を奪われている。


◆米国における業態間の戦い

業態 調剤薬 大衆薬 健康美容商品(HBC)
チェーンドラッグ 51% 34% 27%
独立ドラッグ 23% 4% 2%
マスマーチャンダイザー 12% 46% 55%
スーパーマーケット 15% 16% 17%


その原因を探ってみると、チェーンドラッグの薬剤師と患者の関係の希薄さが浮かび上がってくる。下表は患者と薬剤師の親密度合い調査だが、独立ドラッグでは親密度が最も高いが、チェーンドラッグになると、スーパーやディスカウントストアの薬剤師より低い。チェーンドラッグの薬剤師と患者の関係は「薄い」と「やや薄い」の両方でなんと7割近くにのぼっている。一方「濃い」と「やや濃い」はたったの16%で、早急の改善が求められている。なにしろ患者が薬剤師をファーストネーム呼んでいるのはたったの11%(親密度が高まるとファーストネームで呼ぶ)で、患者が薬剤師と話す時間は3分間程度というのが現実だ。ドラッグストアが他の業態に攻められている原因は、コンボの食品を中心とした幅広い品揃えやマスマーチャンダイザーの低価格のみならず、患者と薬剤師の関係が非常に希薄だからだ。


◆薬剤師との親密度合い

  非常に薄い 薄い 普通 濃い 非常に濃い
独立ドラッグ 20% 8% 17% 21% 36%
スーパー 42% 13% 19% 12% 14%
マスマーチャンダイザー 49% 12% 17% 11% 10%
チェーンドラッグ 57% 12% 16% 8% 8%
メール/オンライン 66% 11% 11% 6% 6%
クリニック他 71% 11% 10% 5% 4%


薬剤師のカウンセリングやアドバイスに対する満足度は、下表の通り年々上がっている。しかしこの「大変満足」という回答で一番高いのは、価格を武器にするマスマーチャンダイザー、2位がスーパーマーケットと他の業態で、チェーンドラッグが3位に甘んじているのは驚くと同時に残念だ。


◆薬剤師のカウンセリング・アドバイスに対する満足度
「大変満足」という回答率


  2002年 2003年 2004年
チェーンドラッグ 43% 44% 51%
メール/オンライン 38% 38% 43%
スーパーマーケット 52% 57% 60%
マスマーチャンダイザー 47% 56% 61%


このようなチェーンドラッグにおける患者と薬剤師の関係の希薄化に目をつけた他の業態が、チャンスとばかりにヘルスケアビジネスにどんどん参入してきている。スーパーマーケットやディスカウントストアは既に参入して月日が経っているが、ホールセールクラブのコストコも参入を強化し、2004年だけでもファーマシー(OTC+調剤)の売上げは22億ドルを上げた。特に調剤薬は2003年対比で30%も成長して9億ドルを記録した。叉エレクトロニクス量販店No.1のベストバイは、新しい試みとして「eq life(equilibrium:バランスの取れた生活)」という店名で、ヘルス+ウエルネス+テクノロジーを統合させたビジネスを開始した。アイディアが誕生したきっかけは、がんで闘病している友人のニーズから医療とテクノロジーを融合したヘルスケアソリューションの必要性を感じたからだという。マッサージサービスなどを提供するヘアサロン、スパ、ヨガ教室や健康セミナーを開催するコミュニティールーム、ファーマシー(調剤+OTC+サプリメント)が核売り場になっている。家電のかかわり方はエクササイズというカテゴリーでフィットネス機器、休息というカテゴリーでマッサージ器具、その他体重計、心拍測定器、血圧計などだ。

また薬を購入するに当たっての選択理由は、調剤薬に関しては、「医師の処方どおり」が当たり前のことだが圧倒的に多い。またNBのOTCに関しては「以前使用していた」が1位だが、「医師の処方や推奨」が2位、そして「商品のラベル」が3位になっている。一方、PBのOTCに関しては、「価格」が「以前使用した」に拮抗して2位で、3位が「商品のラベル」である。「薬剤師の推奨」というのは「医師の推奨」よりも低いが、これも患者と薬剤師の関係が薄くなっている顕著な証拠だ。


◆前回の薬はどのような理由で購入したか?

  ブランド調剤薬
(新処方箋)
ブランド調剤薬
(リフィル)
ジェネリック
(新処方箋)
ジェネリック
(リフィル)
ブランドOTC PB -OTC
医師の処方や推奨 90.2% 84.6% 86.6% 81.6% 22.5% 11.5%
以前使用 14.7% 31.1% 14.6% 31.9% 60.7% 51.6%
適切価格 2.1% 2.2% 3.7% 3.6% 12.9% 46.0%
薬剤師の推奨 2.0% 1.3% 5.0% 3.0% 5.7% 7.5%
友人・親戚の推奨 0.6% 0.5% 0.3% 0.4% 9.3% 3.6%
商品ラベル 0.5% 0.6% 0.8% 1.0% 13.2% 33.3%
テレビ・雑誌広告 0.5% 0.4% 0.1% 0.2% 4.6% 2.0%
店舗従業員の推奨 0.2% 0.1% 0.2% 0.2% 1.1% 1.6%
店内陳列 - - - - 2.1% 4.8%


このように、米国で起きている薬剤師不足やファーマシー部門のコスト抑制は、患者と薬剤師の関係を希薄なものにしている。その傾向は特にチェーンドラッグにおいて顕著で、患者離れを引き起こしている。日本でも今後、他の業態のドラッグストアビジネスへの参入やOTCの規制の緩和により、競争は益々厳しくなる。他の業態に侵食される要因が、他の業態の幅広い品揃えや低価格ということより、もっと本質的な「薬剤師と患者の関係希薄」とならないように注意しなけなければならない。





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