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■第26回「損得より人命救助第一の米国ドラッグストア」

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欧米ドラッグ最新事情 第26回
「損得より人命救助第一の米国ドラッグストア」

超大型ハリケーン・カトリーナが8月25日に米国のフロリダ州に上陸、メキシコ湾に抜けた後、29日にルイジアナ州に再上陸し、米国南部に大きな被害をもたらした。ルイジアナ州のニューオーリンズは8割以上が水没、アラバマ、ミシシッピー両州でも多くの家屋や構造物が水につかった。多くの死傷者が予測され、米災害史上まれにみる惨事となった。大きな水害が起こった後は衛生状態が悪化し、感染症にかかる確率が高まるが、実際にルイジアナ州やミシシッピー州では被災した人が細菌に感染して死亡するケースが出てきている。のどが渇いて汚水を飲んだり、水浸しになったときに傷口から菌が入ったりして感染したと考えられている。米南部ではまだ気温が30度以上あり、日本にも似た強い湿気があるため、食中毒が起こりやすい。テキサス州ヒューストン郊外の避難所では、子供を中心に1千人以上が下痢を起こし、食中毒の原因となるノロウィルスに集団感染している。

友人のウォルグリーンの薬剤師よりメールが入った。彼は現在ウォルグリーンを代表して、被災地の救援活動に従事している。その彼によるとマスコミが報道するよりも遥かにひどい状態で地獄のようだと表現しているが、メールの一部を紹介しよう。

「ハリケ−エン・カトリーナがニューオリンズはじめ一帯を襲ってから、2週間が経つ。被害に遭った地域で退避した人々そして残された人々の間に大きな医療問題が起きている。例えばニューオーリンズの医師は他の場所へ避難したため、医師と患者のつながりが絶たれてしまった。他の場所へ避難した人々はどの医者にかかればよいかわからないし、また医者は自分の患者がどこに避難したかもつかめない状態だ。そして多くの患者の病歴と治療歴は流されてしまったため、病院やナーシングホームの患者は治療の記録なしに他へ搬送されてしまったケースが続出している。がんの患者はキモセラピーや放射線療法を受けられる場所を求めている。糖尿病患者はケアのための器具が不足しているし、医療検査を待っている患者はいつ順番が来るか分からない状態だ。知人のビンセントはニューオーリンズから避難しなければならないため、肺がん治療の30日間の放射線治療を中止している。彼の入院していた病院が水没してしまったからだ。このように今回の災害において医療混乱はひどい状態に陥ちいり、多くの患者は非常に困った状態に置かれている。」

このように患者のみならず多くの人々を困難な状況下に追い込んだ米国の政府の対応の遅さに対しては、きびしい非難が巻き起こっている。

米国最大のドラッグストアであるウォルグリーンは、災害に遭った地域に多くの店舗を抱えており、水没を含め多大な損害をこうむった。数百店舗に及ぶ被害ばかりでなく、患者救済のために提供する無料の薬や商品等、経営上は好ましくないことが起きたため、株価はハリケーンの前より10%程度下落した。しかし、ウォルグリーンはニューオ-リンズでも最大のシェアを持つドラッグストアであり、その責任感から緊急ヘルスケアプロバイダーとしての次のような活動を素早く展開した。

1) Never Close(ファーマシー機能を決して閉鎖することなく、調剤薬を提供し続ける)

患者に薬を提供し続けるという考えから、数箇所にモービルファーマシーを作ったり、従業員の車を薬の保管場所にして調剤薬の提供を継続的に行っている。今後そのモービルファーマシー施設をさらに増加する予定だ。ニューオーリンズでは薬の輸送のために、従業員の車の上に警察緊急用ライトをつけ、緊急車として走り回っている。このように、ウォルグリーンは地域の住民を災害から守るために最大限の努力をしているし、地域の人々の健康を守るという信念から、店を閉じないという考えを貫き通している。そして水没した店は、“We shall return”(我々は戻ってくる)の言葉のもとに、再度店をオープンするべく立ち上がり、そのための活動をし始めている。


2) 無料の活動

災害の後、ウォルグリーンの薬剤師は治療歴や薬歴の定かで無い患者に対し、病気の状態のチェックや調剤薬を無料で患者に提供する活動をしている。例えば避難先のコンベンションセンターでは、処方箋無しで被災者に処方薬を提供している。患者は通常どのような薬を服薬しているか分らない人が多い。そのような時薬剤師は薬の形状や色を聞き、かつ病気の症状から判断してどのような薬が良いか判断している。この無料の薬やヘルスケア商品の提供はどれ位の金額になっているか不明なほど無数の数に上っている。大量に使用したこのような緊急用の薬に対してメーカーが応援してくれることを願っているが、まだメーカーからOKの返事は来ていないという。

またウォルグリーンは全米から薬剤師をやりくりして、彼らをヒューストンやダラスのコンベンションセンターに送り込み、患者のケアに当てている。またライバルのライトエイド、ウォルマート、ターゲット等と頻繁に連絡を取り、調剤薬を必要とする被害者の薬歴を教えてもらったり、また薬の無料提供がダブらないようにしている。このような緊急時の薬剤師の団結力は強く、競争相手という次元を超越しており、患者のためになることをお互いに出来るようにしている。

国家が対策を打つ前に、ウォルグリーンは立ち上がって多くの人々に貢献した。自分たちの企業理念である“The Pharmacy America Trusts”(米国人や国家に信頼されるファーマシーをつくり、地域の人々の健康に貢献する)に基づいて行動をとっただけ、と淡々と語るモスコーニ薬剤師の言葉が印象的だ。

日本で災害が起きたとき、ドラッグストアの人々は地域住民の健康のために、損得を考えずに行動が取れるだろうか? 薬剤師はライバルの企業の薬剤師と連絡を取りあって、地域の人々のヘルスケアに貢献できるだろうか? 自分たちに問うてみてほしい。





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