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「閉園が検討された旭山動物園を超人気動物園に変身させた五感訴求」 |
先日の新聞に日本の最北動物園北海道旭川の旭山動物園の年間入場者が300万人を越えたと発表があった。300万人を超える動物園は、上野動物園と名古屋の旭川動物園しかない。しかしこの旭山動物園も平成8年には入園者数が26万人と非常に少なくなり閉園の危機に追い込まれた。上野動物園には422種類の動物がおり、年間入園者数は350万人。一方旭山動物園は148682平方メートルの規模に136種類の動物と上野動物園の1/3以下の動物の数である。年間入園者数では上野動物園に及ばないにしても、月間ベースでは上野動物園を抜くこともしばしばある。多くの動物園が入園者の減少に嘆いているが、この動物園は今年も前年より毎月1日1000人入場者が増えている。旭山動物園はどうしてこのように上野動物園に匹敵する動物園になったのか? 筆者が見学した経験から言わせてもらえば、それはシズル感(臨場感)のある動物園作りだ。 動物園の方針は「行動表示」ということで、出来るだけ動物の生態や野生での行動をそのまま見せる。例えば白熊が水の中を泳ぐ姿がガラス越しに見えたり、透明カプセルで覆われた所へ首を出すと、白熊の歩く姿が手に取るように見えたり、オランウータンが食事時のモグモグタイムに地上の高いポールとポールの間の檻無し空中回廊を歩いたり、チンパンジーの森ではスカイブリッジの下を人間が歩くとチンパンジーの行動がまじか見えるし、ペンギンが園内を歩いたり、見学者がタイガーにおしっこをかけられそうになったりするという具合だ。またキリンが死んだときは、喪中の札を付けて子供たちに命の大切さを教える工夫もされていた。 この動物園の成功は、「See Me(私を見て)」と動物の生態を出来るだけ生で見せ、「Touch Me(私を触って)」と動物に実際に触らせたりまたは触れるほど近づいて、「Feel Me(感じて)」と動物を感じとらせるまさに人々の五感に訴求しているのだ。その結果沢山の入園者が来る「Buy Me(私を買って)」につながっている。動物という商品の見せ方及び客を巻き込んだ楽しい雰囲気が、この成功をもたらしたが、小売業の成功にもつながることだ。 人間は本来無意識に好き嫌いで物事を判断する傾向が強い。人間には好き嫌いなどを「感じる右脳」(感情=非理性)と、「論理的に考えて判断する左脳」(理性)の2つがある。人間の購買心理は感情=非理性で欲求が起き、理性で修正されるというプロセスを踏む。購買行動における理性と非理性の割合は、最低でも1:9と言われるくらい圧倒的に非理性の力が強い。だから感情=非理性に訴求する力をアップさせることが、販売力を高めるカギなのである。 物事を判断するとき人間は常に五感(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚)を働かせ、大脳に情報を取り込んでいる。これは自分自身を環境に適応させるために、脳が自然に行っていることだ。五感の中でも83%の割合で視覚を最も多用している。扱っている商品が良くても店構えが悪いと、視覚から得た情報で「こんな店で大丈夫?」「商品も悪いのでは?」「だまされるのでは?」というような感情が生じてその店は敬遠される。何となく不快を感じる店は、不快な経験をしそうだから避けたほうが良いという動物的な直感が発しているシグナルで、そのシグナルは「理性」より「感情」として人の心に早く伝わる。まず「何となく感じが良い、雰囲気が良い」という非理性による評価を得て、その後で「品揃え」や「価格」という理性の分野の話になる。最初に「感じが悪い」と思われたら最後、その店を繁盛させるのは至難の業なのだ。それくらい店の雰囲気はお客の購買行動に大きな影響を与えている。店を作るときに覚えておかなければならないのは、ハローイフェクト(後光効果)である。美味しそうな雰囲気の店であれば、食べる前からメおいしそうモという概念を持つ人間の心理だ。そのように店構えというのは、消費者の顧客満足を左右する固定概念を作り上げるので大切である。 統計的に見て、天気の良い日は株価は上る。それは天気が良いと晴れ晴れしたハッピーな気分になって前向きになるからだ。店内にいることがハッピーと感じたお客は滞店時間が長くなり、財布の紐もゆるみがちになるので、関連買いの傾向も高まる。例えば背広を購入したお客がハッピーな気持ちになって入れば、ネクタイ、ワイシャツという具合に他の商品も購買する。楽しさに満ちたお店はお客の購買点数を増やしたり、新しい商品を購入する気持ちを起こさせる効果がある。 もう一つお店の雰囲気がお客に与えるものに、エキサイトメントがある。エキサイトメントを与えられたお客は、購買行動において衝動買いが増える。米国のマーケティングコンサルティング会社ジャスタック社が実施した「エイキサイティングな雰囲気が購買行動にどのような変化を起こすか」という調査がある。買い物する前に予定した買い物時間と購入予算金額を被実験者に聞き、15分後の買い物途中に被実験者がどの程度楽しくエキサイティングな状態であるかを10点法で評価してもらった。そして実際に買い物が終わってから、被実験者が費やした買い物時間と購入金額を見てみると、楽しくエキサイトメント度合いが高い被実験者ほど、買い物時間が長く購入金額も高いという結果が出た。米国のアメリカンフットボールのナンバーワンを決めるスーパーボールのテレビ広告料は通常の5倍3億円程度かかる。それでも広告を打ちたい企業が多いのは、視聴率が40%を超えることも理由の一つだが、応援チームのプレーにエキサイトした人々が、コマーシャルされた商品に対し欲望がわき購入する確率が高いからだ。 米国東部のコネチカット州にあるスーパーマーケット・スチューレオナードは常に入店客が「Wow!(すごい!)」と驚くような仕掛けを作って楽しませている。駐車場にはミニ動物園があり、にわとり・かめ・うさぎなどがお客を出迎える。店の入口の石碑には企業の信条「(ルール1)お客様は常に正しい。(ルール2) 万が一お客様が間違ったとしても、我々は(ルール1)に戻る。」が彫りこまれてあり、顧客に店での買い物に対する安心感を与えている。店内には、パリで製パンを学んだレオナード会長の長女が始めたベーカリーセクションがあり、焼きたてのパンの香りがお客の鼻を刺激する。乳製品売り場では、機械仕掛けの牛乳パックが歌い踊り、体長2.5メートルのハンクという名前の犬の縫いぐるみがバンダナを頭に巻き、ギターでブルーグラス調の音楽を演奏している。ハロウィーンになると駐車場にお化け屋敷が作られ、多くの従業員が仮装して、お客を楽しませている。クリスマスには店内はクリスマスムード一色となり、合唱隊が入り口でクリスマスキャロルを歌って雰囲気を盛り上げている。この店がいつも活気に溢れているのは、こうしたパフォーマンスだけではなく、肝心の商品の品質も抜群であること、いつでもサンプルの試食が出来ること、清潔でセンスの良いユニフォーム姿の従業員のきびきびした仕事ぶりなどが相まって楽しい買い物空間を構成しているのだ。この企業は全米にわずか4店舗しかない。1号店は約3000坪の建物の中に牛乳・パン・惣菜・クッキーなどを作るためのスペースと生鮮の大きな保管庫を設けているため、売り場面積は1000坪ほどである。この店舗には週に10万人の来店客があり、年間売上高は1億ドルに達する。1平方フィート当たり売上高は2700ドルにも上る。世界一の売り場生産性としてギネスブックに記録されたこともあり、また優れた企業家に与えられる大統領賞を授与されている。 「繁盛する店の共通点は顧客の右脳に訴える楽しさ」とハーバードビジネススクールが調査結果を発表していたが、旭山動物園やスチューレオナードの大繁盛はそれを証明している。顧客への五感訴求により楽しさとエキサイトメント作り上げた店作りが21世紀のビジネスの成功のカギを握っている。 |
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