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■第45回「売上げに大きな影響を持つ色…“Power of Color”」

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欧米ドラッグ最新事情 第45回
「売上げに大きな影響を持つ色…“Power of Color”」

人間の印象の約83%は五感の中の視覚で作られることは前号でお話しした。その視覚の約80%は色によって影響付けられる。つまり、人間の情報の70%弱(83%_80%=66%)は色で作られているのである。こうした理由から感情訴求における色の重要性が認識され始めた。どの色を使うかはコストに余り影響しないにもかかわらず、売上げや利益には大きく影響するため、米国の企業は色に敏感で、“Power of Color”と呼んで色彩戦略を大変重要視している。米国のドラッグストアが、化粧品コーナーは若さ・若返りのイメージのピンク、薬売り場は癒しイメージの緑やブルー、清涼飲料水売り場は冷えたイメージのブルー、写真コーナーはコダックカラーの黄色を使用しているのは、消費者のイメージに合った色を使うことで売り場を見つけやすくしていることと衝動買いを促進するためなのだ。
それでは色の持つ力について述べてみよう。


1) それぞれの色の持つ作用

  1. 「赤」はなぜ看板やサインに多く使われるのか?

    赤は可視光線の中で最も波長が長く進出色であるため、遠くからでも見えるという強い視認性の特徴を生かして、ポールサインや店舗看板やレジサインに多く使われる。また交感神経を刺激して脈拍・呼吸数・血圧を上げる生理作用や、興奮させる心理作用もあるため、短時間ショッピングでディスカウント商品を一気に購入させたい店やPOPには適している。また副交感神経を刺激することにより、胃腸の働きを活発にし食欲を増進させる。そのため中華料理・韓国料理・ファーストフードレストランでは赤を多く使うし、食品売り場では赤などの暖色は適切な色なのだ。一方興奮色であるために疲労感も早く覚えるので、赤を主体にした店では滞店時間が短くなる。またカウンセリングを大切にしたいコーナーでは、顧客に落ち着きがなくなるので適切なカウンセリングを施しにくい。恐怖色でもあるため薬売り場では血や痛みをイメージして客が遠のいてしまう不適切な色である。暑さ・暖かさを感じさせる色なので、冬には多く夏には少なめに使用すると良い。

  2. 「ピンク」はなぜヒーリング/ベビー/化粧品コーナーに多く使われるのか?

    ピンクはアドレナリンの分泌を抑制し神経の高まりを静めて安心感を与えるため、ヒーリングコーナーに向く。愛らしいイメージも強いのでベビーコーナーに最適であり、ウォルマートのベビーコーナーはピンク色で囲まれている。また安心感という点からユニフォームに向き、若返りの心理作用から化粧品コーナーに最適であるため、米国では殆どのドラッグストアの化粧品コーナーではピンクをイメージカラーとして活用している。ダイエットコーナーでピンク色のパッケージやPOPが目に付くが、食欲を増進させる色であり叉太って見える色なので、本来は正しい色使いでない。ダイエットには食欲を抑え、締まって見えるブルー系の色が適切だ。

  3. 「オレンジ」はなぜ食品、滋養強壮、スポーツニュートリションコーナーに多く使われるのか?

    オレンジは内分泌線の活動を活性化させ食欲を増進させる生理作用があるために、食品コーナーに適する。元気はつらつイメージがあるので滋養強壮剤コーナーにも向く。反面チープイメージも持ち合わせているので、特価コーナーやPOPには良いが、上品感・高級感を見せたい場合には不向きである。また多く使いすぎるとうるさい感じになりイライラしてしまうので注意が必要だ。

  4. 「黄」はなぜヤングコーナーに向くのか?

    黄色には大脳に刺激を与え、瞬発的な学習意欲や集中力・想像力を発揮させる生理作用がある。またエネルギッシュで快活で明るいというプラスイメージがある。そのためヤングコーナーには最適である。しかし成人女性には不快な色・メランコリックな色にもなる。黄色は東洋では涅槃の色であり、欧米では死と結びついている。日本の多くのディスカウント主体の店では、目立つということで値札を黄色にするが、主顧客の女性に不快感を与えている恐れがあるし、店全体を安っぽく見せてしまう。そのような店では、高価格帯の薬や化粧品、専門性の高い商品は余り売れず、ディスカウント志向の強い日用品の売上げ主体の店になりがちである。

  5. 「緑」はなぜ癒しやビタミン、健康食品コーナーに多く使われるのか?

    緑は赤で始まり紫に終わる虹の七色の中央に位置する中波長の色で、バランスの象徴色として誰にも親しみを持たれる。ストレスをなだめて疲れを癒すし、目の疲れを緩和して頭痛やむかつき感を和らげるし、心を落ち着かせてくれる。そのため自然・環境・癒しをテーマにした商品や空間とマッチし、青果や健康食品売り場、薬コーナーに適切な色である。米国のビタミンショップやドラッグストアのビタミンコーナーの什器及びサインにはグリーンが使われ、ナチュラルイメージを高めている。欠点は中途半端やあいまいなイメージがあることだ。

  6. 「青」はなぜヘルスケアコーナーに多く使われるのか?

    青は世界的に見ても最も好まれる色である。副交感神経に訴えることにより、脈拍・呼吸・血圧・体熱を下げたり、神経の高ぶりを静めてくれるので、ヘルスケアコーナーに最適である。心理作用としてはスマート・知的・誠実・クール・クリーン・正確・精密イメージがある。また冷えたとか涼しいという印象を与えるので、冷たい飲料水売り場や夏の売り場作りには向いた色である。反面ホットで元気なイメージ演出には不向きであるし、冬季には寒いイメージで不快感を与える。また食欲にブレーキをかける色なので飲食店や食料品売り場には不向きである。

  7. 「紫」はなぜ癒しコーナー、化粧品コーナーに多く使われるのか?

    紫には心身を癒し、ストレスを軽減する効力があるので、傷ついた人には紫が美しく写る。そのためヒーリングコーナーに用いられたり、高位の色として高価格帯の化粧品コーナーに使用される。しかし上品/下品、リッチ/チープ、高貴/奇妙の二面性を持つ色なので、安っぽく使用すると品の無い店や陳列になる危険性がある。また食欲を減退させる色なので食品には向かない。

  8. 「白」はなぜ調剤室やユニフォーム、店内装や什器に多く使用されるのか?

    可視光線を反射する白は、有彩色や無彩色を含めた全ての色の中で最も明度の高い色で、店内を明るくするため多く使用される。また清潔さをイメージさせるためにユニフォームにも多く使われる。しかし凛とした白はしらじらしいという言葉があるように、他者を突き放したり拒絶するイメージもあるので、オフホワイト系にすることも多い。医師や看護婦のユニフォームを白からピンクやクリーム等淡い色にするところが出てきているのは、患者が近づきやすい優しいイメージを与えるためだ。

  9. 「黒」はなぜ高級化粧品コーナーに使用されるのか?

    黒には威厳・重厚・高品質などの心理作用があって高級感演出に向くため、高級化粧品コーナーや高級スーパーで好んで使用される。化粧品の店セフォラは黒の活用で画期的な売り場表現をしたし、高級スーパーのドレイガーズでは床に黒と白のタイルを使っている。また黒は男性的でシャープなイメージから男性売場にも活用される。一方闇や不吉を連想させたり、諸臓器官の活動を低下させたりする色でもある。


2)色の活用
  1. 進出色と後退色

    暖色系は進出色なので、実際より大きく、太く、近くに見える。そのため訴求したい陳列のPOPの色には必ず暖色を使用する必要がある。寒色系は後退色なので、壁や天井に使うと遠くに見えるため実際より広く見える。小物を集めて陳列する場合は、暖色を使った方が大きく見え顧客に訴えやすい。

  2. 色による時間の長短

    暖色は脈拍・血圧・呼吸を増加させる作用があり、ウォーキング等の軽い運動を行っているのと同じ状態になる。このような空間に囲まれると時間を長く感じるから、短時間で買い物をしたいセルフ販売や、時間制限のある宴会場やバイキング、速い回転を求めるファーストフード、コーヒーショップなどに向く。商品でも消耗頻度の高い商品、低単価商品、価格訴求商品、お買い得商品に向く。
    ブルー等の寒色は、生理的に沈静させる作用があるため時間を短く感じさせる。レジ、調剤の待合室、じっくり買い物をしたい商品、専門知識を要する商品、購買頻度の低い商品、高額商品に向く。

  3. 3度も違う暖色と寒色の体感温度

    色には人に暖かい感じを与えるものと、冷たい感じを与えるものがある。一般に色相の持つ暖かさは、赤、橙、黄色、緑、紫、黒、青という順になる。また明度も重要な役割を果たす。夏に白っぽい服をきると涼しそうに見えるが、明度の高い色はどんな色でも涼しさを与える。逆に明度の低い色は暖かさを与える。

    寒色系の部屋と暖色系の部屋では、人々の体感温度で約3度の違いがあり、暖色系の部屋では暖かく感じる。暑い時期は寒色系の色を主にした売り場にし、寒い時期は暖色系を主にした売り場作りが必要になる。また日本のように夏と冬のある国では、看板の色は必ず寒色系と暖色系の両方を使う必要がある。寒色系だけだと寒々しくなって、お客は冬に来店しなくなる。コンビニエンスストアのファミリーマートと7-11の違いに注目してみよう。

  4. 色による重量感の違い

    同じ重さでも色により重さの感じ方が違ってくる。NHKの放送した実験だが、重さも大きさも全く同じ箱を用意し運ばせたところ、白い箱が軽いという回答になった。ちなみに白の100gに対してそれぞれの色が感じさせる重さは、黄色:113g、黄緑:132g、水色:152g、赤:176g、紫:184g、黒:187gである。このように黒は実質上同じ重さでも、白より約2倍重く感じるのである。感じる重さには色の明るさ(明度)が重要な働きをし、白やパステル調の明るい色は軽く感じ、黒に近ずく程重たく感じる。そのため圧迫感の無いようにまた商品が取りやすいように、明るい色を上へ暗い色を下にする内装や陳列が大切である。



色のことをもっと知りたい方は、拙著「販売心理学93の法則」を参照されることをお勧めします。



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